jomon-venus’s diary

書き溜めてたやつを解放するブログ

UFOを見た

 

UFOを見たことがある。これを言うと、大抵の人は「あらら」という顔をするのだが。この人、UFOを信じてて、それに見たことがあるとか言ってるよ、あらら。

 

そう思われたって、見たことがあるんだから仕方がない。

 

 

 

 

小学2年生の、夏だった。午後の授業が終わって、帰りのHRだった。自分の祖母であってもおかしくないような先生が連絡事項をつらつらと話している。

 

ふと、窓の外を見た。

 

大きな大きな入道雲だ。先生の声はバックグラウンドミュージックとなって、その入道雲に見入った。もくもくと、教室の天井を覆っていくような、大きな大きな夏の入道雲、、、

 

 

の隣に何かがあった。水色の麦わら帽子だ。空と全く同じ色をした、小さな麦わら帽子。小さいけれど、不思議とはっきりその形を見ることができる。

 

UFOだ。間違いない。隣の席の人に言おうか。いやいや、HR中だからまだ言えないや。(わたしの小学校は、先生が厳しくて、私語をしたらめちゃくちゃ怒られちゃうのだ。)

 

誰かに言えないんだったら、見失わないように、ずっと見ててやる!

 

「父と子と聖霊のみなによって。アーメン。」

 

帰りのお祈りが始まったって、見ててやるぞ!!

 

「めぐみあふれる聖マリア、主はあなたとともにおられます…」

 

……あ。入道雲はあんなに大きいけれど、風に流されていく。ゆっくりと、ゆっくりと、水色の麦わら帽子に近づいていっているのだ。

 

まずい!このままだと見失ってしまう!

 

「あなたは女のうちで祝福され、ごたいないのおんこ、イエスも祝福されています…」

 

入道雲の端が、麦わら帽子のつばに触れる。植物プランクトンがゾウリムシに食べられるときみたいに、触れたところから飲み込まれていく。

 

「神の母、聖マリア、わたしたち罪人のために、神に祈ってください…」

 

麦わら帽子は、見えなくなった。

 

「アーメン」

 

 

「きょうつけ。」

 

窓に駆け寄る。

 

「れい。」

「先生、さようなら!みなさん、さようなら!」

 

 

 

UFOは、もう見えない。

 

 

 

「ねえ、いまさ、UFOそこにいたんだけど。」

近くにいた子に言えば、それを聞いた周りの子たちも窓に手をついて空を見上げた。

「どこ?」「どこ?」

 

「…もう、見えなくなっちゃったけどさ」

 

みんなで見上げる空には、もくもくとした入道雲があるだけだった。UFOを飲み込んでしまった、入道雲。みんなにとっては、いたって普通の、夏の入道雲

 

ひとり、ふたりと帰っていき、わたしだけが入道雲を見ていた。風が入道雲を動かしていったが、さっきまでUFOがあったところには、何も残っていなかった。入道雲がUFOを連れて行ってしまったのだった。

 

 

 

仕方ないなあ。帰るか。それにしても、暑いなあ。

アブラゼミが、夏をより夏らしくするなか、汗を拭き拭き、家へ帰った。

 

 

 

 

 

 

夏の入道雲のなかに、UFOはまだいるのだろうか。また夏が来て、空を見上げたら、あのとき見たみたいなもくもくとして大きな入道雲がある。風が入道雲を運んだあと、ひょっこりと水色の麦わら帽子が現れてくれるような気もする。